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古代の語り部

日頃から弊社がお世話になっている、岡谷蚕糸博物館さんの名誉館長が書かれた書籍より、

一節をご紹介します。

出典:市立岡谷蚕糸博物館名誉館長 嶋崎昭典 「絹の文化」

::::::::::::::::::::::::::::::::: 引用はじめ ::::::::::::::::::::::::::::::::::::

中国で1番古い辞典に、漢代に作られた許慎の『説文解字』というのがあります。

漢字というのは『説文解字』に始まりまして、みんな部首、へんやつくりで分類しております。

例えば、きへんと言うところを見ると林とか、森とか、松、杉、柱、枯れる、
こういう文字がきへんの中にありますけど、この中は一貫して木というものが関わっている。

だからきへんの文字の数が多いということは、文字が作られたような古代において
人間の生活に密接な関わりがあった、と言うことの1つの証拠ではないかと思う訳であります。

そこでつくりや、へんごとに文字の数を全部拾い出しまして、数の大きい順に度数分布を作ってみました。

さんずいと言うのが1番多い。
次がきへん、くさかんむり、てへん、くちへん、にんべん、いとへんと並んで、10個だけ今ここに出しました。

ただ、へんやつくりの分類基準は、それを編集した人に任せられていることのようでありますので
辞典により若干の凹凸はありますけど、だいたい変わりがない。

今分類した、1番多い方から順番を10番までつけまして
まずこの3つのグループ、さんずい、きへん、くさかんむり。これは、水、木、草、自然そのものを指します。

次の、てへん、くちへん、にんべんは、これは人体。

そして次の、いとへん、かねへん、これは人間が作った工業産品であります。

9番、10番のりっしんべんや、ごんべん、
これは1番私たちが相手に伝えたい意思、心、言葉、こういうようなことになってきます。

と言うことは、古代において工業産品の首位は糸だと言うことになります。

糸というものが、いかに文字が作られた頃重要な人間との関わりがあったかということを
これは言っているのではないかと思うわけです。

今例えば純粋の「純」、これは私たちは生糸とは無関係の言葉だと思いますが、いとへんです。

さきほどの『説文解字』は、「純」というのは糸である。生糸であると言っています。

旺文社の漢和辞典を見ましても、「意味1:生糸」です。それがもとでそれから色々言葉へ波及して
使われてきたのだと、ここには書いてあります。

訓練する、鍛練する、「練」と言う字があります。この「練」を『説文解字』に見ますと
「練」とは絹を練ることであると書いてあります。

漢和辞典を見てみると、意味の1は練る、生糸や絹をあく(灰汁)で煮て柔らかくし白くすること、
だからいとへんだ。

とこういっているわけです。鍛練するとか色々には流用されて使われていますが、
元の意味は、生糸をあくで練ること。だからいとへんだということであります。

少なくとも『説文解字』に含まれている文字をこうやって当たっていきますと、全て生糸に関わるのです。

このように見ていきますと絹の文化は、今は尋ねる術もない古代からの人々の喜びや悲しみ、
それから世相、あるいは技術水準、文化を時を越えて蘇らせる。

人類の素晴らしい智慧の深さと広さを今に伝える語り部ではないかと。
そして、大切な生き証人ではないかと思っております。

 

::::::::::::::::::::::::::::::::: 引用おわり ::::::::::::::::::::::::::::::::::::

私共の社名であります精練の技術「絹を練ること」
古代から先人によって受け継がれてきた素晴らしい技術であります。

改めて誇りを胸に日本における絹技術の継承に取り組んでまいります。